モノづくりの方法が変わった、というコピーがありました。3Dプリンタの広告だったでしょうか。
ネットをみると、中華製CNCフライス盤、レーザーカッター、3Dプリンターが安価で販売されるようになり、ホビーの世界でもデジタル化が進んでいます。
CNCフライス盤を活用すると、手作業では難しい正確な、細かな加工を自宅で実現できます。DIY好きにはたまりません。
というわけで、中華製CNCフライス盤を購入しどんなものか試してみました。
この記事は、しばらく使ってみて「CNCフライスの概要がなんとなく掴めてきた」素人の私が、購入前に悩んだ、
「CNCフライス盤ってどうやって動かすのか?」
「買えばすぐ使えるのか?」
「素人でも使いこなせるのか?」
の疑問の答えをまとめたものです。
初めに要点を言いますと、
1 卓上CNCフライス盤はCNCソフト付きで販売されており、パソコンと接続すれば動く。
2 CNCソフトは、Gコードという切削指示データを元にフライス盤を動かす。
3 GコードはCADソフト、CAMソフトで作成する。CNCソフトでは作成できない。
4 よって、CADソフト、CAMソフトが使用できないとCNCフライス盤は使えない。
となります。
初めてCNCマシンに興味を持った方は???かもしれませんので、もう少し詳しく説明してみます。
目次
CNCフライス盤とは
あまりに基本的ですが・・・フライス盤について説明。
スライス盤と呼ぶ友人がおりました。食パンのスライサーを連想してしまいました。(笑) あまり一般的なモノではないようですね。
フライス盤とはドリルの刃に似たエンドミルという刃物を回転させ、材料のカタマリからパーツを削り出す機械のことです。3Dプリンターの逆バージョンです。
3Dプリンターが0からプラス(積層)してパーツを作成するのに対して、フライス盤は100(カタマリ)からマイナス(切削)してパーツを作成します。
フライス盤の仕組みはシンプルで、X軸方向、Y軸方向にスライドするエンドミルをボールねじで動かします。
〇X軸のボールねじを一回転させるとエンドミルがX軸方向に1㎜動く
〇Y軸のボールねじを一回転させるとエンドミルがY軸方向に1㎜動く
といった具合です。
〇ボールねじを手動でクルクル回転させるのが汎用フライス盤。
〇ボールねじをPCで制御して回転させるのがCNCフライス盤。
「X軸を10回転」と「Y軸を10回転」を同時に行えば、「X方向に10㎜」、「Y方向に10㎜」の移動がブレンドされ斜め45度に14.14㎜(√2×10㎜)移動することになります。
ですが、手動で動かす汎用フライス盤で、X軸Y軸の移動をブレンドさせるなんて芸当は素人にはできません。
そこで、パソコンによりX軸Y軸の回転を同時に制御し正確に同じラインをトレースできるようにしたものがCNCフライス盤です。
Computerized Numerical Control(コンピューターによる数値制御) の頭文字をとってCNCです。
動かす力はステッピングモーター
X軸、Y軸ボールねじを回転させるのはステッピングモーターです。
ステッピングモーターとはパルス数で回転角度を制御できるモーターのこと。
卓上フライスで使用されるステッピングモーターだと1パルス送ると1.8度「ピクッ」とわずかに回転します。
よって、200パルス送ると・・・1.8度×200パルス=360度=1回転します。
普通のDCモーターのように惰性で回ることはありません。ビタッっと指示されたパルス分だけ回転して静止します。静止位置も磁力で保持されます。
このステッピングモーター几帳面さにより、正確で細かな切削が可能になっています。
CNCフライス盤ってどうやってつかうの
汎用フライスなら自分の手でX軸Y軸方向に材料を動かしてせっせと削るだけなので、何をするかイメージしやすいですね。
では、CNCフライス盤でパーツを削り出すにはどうするのか。初めての方は見当もつかないかと思います。
CNCフライス盤の場合、次の手順が必要になります。
1 CADソフトで作りたいモノのデータを作成( ↓ こんな図を描きます)
2 CAMソフトでエンドミルが切削するライン(刃の通り道)、速度、順序のデータ(Gコード)を作成
下図の青いラインが刃の通り道です。
3 CNCソフトで「Gコード」読み込みフライス盤を制御
覚えることいっぱいありそうですね。やーめたっと思った方も多いと思います。私も購入後半年放置しました。
繰り返しになりますが、こんなパーツを作りたいを頭に描いたら、CADソフトで描画し→CAMソフトで切削ラインのデータを作成し→CNCソフトでフライス盤を動かす、という工程が発生します。
作業小屋を離れて、パソコンに向かって作業をするので趣味の工作というより仕事をしている気分になります。
では次に、それぞれのソフトについて簡単に説明します。
CADソフトとは
パソコンで立体(部品)を描くソフトのことです。ホビーユースだとFusion360というソフトが有名。
先の図はFusion360で描画しました。この図はソフト内でぐるぐる回して全方向から見ることができます。
CAMソフトとは
CADで作成した部品データを元に、使用する先端工具、切削するライン、切削速度、一回の切削で何ミリずつ削るか、など細かく設定しCNCソフトが読み込めるGコードを生成するソフトです。
これもホビーユースではFusion360が有名です。Fusion360はCAD、CAMがセットになっています。
Gコードとは、1行ごとにXYZ座標と移動速度、直線移動か、曲線移動かなどを記載したデータのことです。
簡単にいうと「次はX**Y**Z**の座標に移動してね。速度は●〇で」という指示の一覧です。
部品によっては、趣味レベルでもGコードの行数が5万行を超えることがあります。
Gコードを見るたびに、こんな大量の細かな指示を書き出してくれるCAMに感謝です。
CNCソフトとは
先のGコードを読み取り「次はX**Y**Z**の座標に移動してね。速度は●〇で」という指示をX軸ステッピングモーター、Y軸ステッピングモーター、Z軸ステッピングモーターに送信するソフトです。
卓上フライス盤にセットされているCNCソフトは、GrblやMach3が多いです。私が購入した時はPlanetCNC社のCNCUSBを使用したものもありましたが今ではほとんど見ません。
現在、Grblが主流となっており、オープンソースのフリーソフトのためこれ一択です。(趣味の世界では)
Mach3のように、「ライセンスを購入しないとGコードを500行しか実行できない」といった制限があるCNCソフトもありますので要注意です。
たった500行では試運転くらいしかできません。Gコードは数万行になりますのでライセンス追加購入は必至です。
CAD、CAM、CNCソフトの勉強について
fusion360は、個人の場合無償で利用できます。
通常、3DCADは数十万円から数百万円することを考えると、Autodeskさんには本当に感謝です!
使い方はYoutubeやGoogleで学べます。せっかく無償なのですからここは少し投資して参考書から学ぶのもいいと思います。
私の場合、「先人から直接学んだ方が自分で試行錯誤するよりは早いだろう」思い、すなおに参考書を買いました。
指示通りに例題をいくつかこなすと、必要な機能を効率よく習得できます。
手元に参考書があると「あれ?どうやるんだっけ?」というときサッと開いてい思い出させてくれるので、重宝しています。
教えてもらうって、本当に時間の節約ですね。参考書は少々高いですが・・・。ネットで独学より断然早いと思います。おすすめします!
市販のCNCフライス盤セットに含まれるもの
販売者によりますが、一般に初めの方向けとして販売されているのCNCフライス盤は、「他にパソコンを用意れば使える」という状態で販売されています。
もちろん多少の組み立ては必要です。
私が購入したCNC3020というセットは2時間ほどで組み立てられました。
本体に加え、基本的な切削用先端工具、材料の押さえ金具、制御ソフトが含まれています。
(先端工具や押さえ金具はオマケ程度。後々自分の使い方に合わせて別途購入することになると思います。)
注意:パソコンとの接続方法がシリアルポートの製品もあり今どきのパソコンでは対応できないCNCフライス盤も販売されています。
本体ほかに必要なモノ
販売者が推奨するスペックのパソコンです。
ノートパソコンは適さないという意見もかつては聞いたことがありますが、Windows7のノートパソコンで十分です。
うちの作業小屋では、あえて中古のWindows7ノートを購入してCNCフライス盤専用としています。
通常、CNCフライス盤を制御するパソコンは専用機として外部と独立したスタンドアローンとするのが一般ですが、手持ちのパソコンがあればそれを活用し、フライス盤を長時間使用するようになったら専用PCを用意すればいいと思います。
CNCソフト以外を起動していなければ問題なく切削できます。
〇 専用PCを用意する理由
ネット接続、セキュリティソフトなどの影響により切削中に一瞬でもCNCソフトが止まるとその材料はゴミになる可能性があります。
そのため、だんだんCNCフライス盤で長時間(数時間かかる場合もあります)の切削をするようになると、切削中のソフト停止が心配になり、ネットから切り離したスタンドアローンの専用PCが欲しくなります。
まとめると・・・
卓上CNCフライス盤はCNCソフト付きで販売され、パソコンと接続すれば動かせる。
CNCソフトの仕事は、Gコードという切削指示データを元にフライス盤を動かすこと。
GコードはCADソフト、CAMソフトで作成する。CNCソフトでは作成できない。
よって、CADソフト、CAMソフトが使用できないとCNCフライス盤は使えない。
となります。
これまでの工作道具の代わりにCNCフライス盤を使う、となると購入したCNCソフトのお勉強(ちょっと大げさかな)に加えCAD、CAMがある程度使えることが必要になります。
これから初めて挑戦という方は、こんな説明を聞いて萎えちゃったかもしれません。
やはり、すぐ作業ができる「手を使った工作・パソコンを介さない工作」の方がとっつきやすいですよね。
電動丸ノコ、バンドソー、ジグソー、リューター、ルーターのほうが気楽に使えます。スイッチオンですぐ稼働です。
CNCマシンですと、パソコンでデータを作成して・・・うーん、と怖気づいてしまいますが、正確な部品の作成となるとCNCの独壇場です。
「削り出されたパーツにうっとりできます。」
「嬉しくて使ってよかったとニヤッとできます。」
工作の範囲が広がりますので、ぜひCNCフライス盤をDIYの道具に加えてみてください。
私もこれからも活用していきます。